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ダーウィンの「進化論」からゴジラと人類を解体してみた

2017年11月14日 0:00配信
徳谷柿次郎
ライター / 編集者 / 株式会社Huuuu代表取締役
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どこでも地元メディア『ジモコロ』編集長が、筑波大学教授にインタビュー!テーマは進化論。深い!人間とゴジラの進化論とは...

11月17日公開予定のアニメ映画版ゴジラ『GODZILLA 怪獣惑星』(通称:アニゴジ)の舞台は2万年後の地球。設定資料には「ゴジラとの戦いで敗れた人類は地球外へと追われ、時を経て再び戻った地球はゴジラを頂点とした生態系が支配する“怪獣惑星”になっていた」とあります。

 

キャッチコピーに踊るのは「滅びるのは、人か、ゴジラか」の文字・・・。

 

 

今回の企画は、そんな究極生命体へと「進化」を遂げたゴジラを専門的見地から真面目に論じるべく、チャールズ・ダーウィンの著作『種の起源』の翻訳者であり、生物進化学に詳しい筑波大学の渡辺政隆先生の元を訪ねました。

 

渡辺先生は、2017年12月に発売予定の『ビジュアル進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』(ポプラ社)の監訳も務めています。

 

先ごろ『サピエンス全史』(河出書房新社)という本がビジネス書として異例の世界的大ヒットを記録したのは記憶に新しいところ。同書は、なぜ今の人類が地球を支配するに至ったのか、今の人類は他の動物と何が違ったのかというところから、人類の”成功”の謎までを解き明かしています。

 

『サピエンス全史』がビジネスマンに人気だというのは、こうした人類の歴史をたどることが、現代のビジネスにも通じる本質的な視点を提供してくれるからでしょう。

 

同様に、ダーウィンの進化論に照らして人類以前から現生人類、さらには究極生物ゴジラまでを一気通貫で語ってもらうことで、何か思わぬ発見に行き着くことがあるかもしれません!

 

さて、忙しい人向けに本記事のダイジェスト要素を先出ししておきます。

 

個人的には「オオナマケモノの存在」「進化=進歩ではない」「巨乳文化は進化ではない?」「第六の大量絶滅機は免れない…」が印象に残ってます。

 

人類は今後どうなってしまうのでしょうか…。

 

 

●記事中の登場人物

 

柿次郎:いきなりですが、生物進化学の専門的見地から見てゴジラはどう映るんですか? 恐竜っぽくも見えますが、ゴジラの存在って進化論的にそもそもありえるんでしょうか?

 

渡辺先生:ありえないと言ってしまえば、そりゃありえないですよ(笑)。ゴジラはもともと海底でひっそりと暮らしていたとされていますけど、恐竜に完全水生のものはいなかったというのが通説。中にはアパトサウルスのように、水の中に浸って草を食べていたと、かつては考えられていた種類もいましたが、現在はもっぱら陸の上歩いていたことがわかっているんですよ。

 

柿次郎:ほほー。言われてみれば、あの格好で水の中にいるのは想像できないですね。

 

渡辺先生:他にも、ゴジラは尻尾を地面に引きずって移動しますよね。かつては…恐竜がそのようにして歩いていたと思われていた時代もありました。しかし現在の認識はそうではありません。例えばティラノサウルス。ここ数年の研究で、尻尾を立てて二足でバランスをとって歩いていたことがわかっています。

 

柿次郎:聞いたことがあります。時代的に、恐竜の古いイメージに則って作られたんでしょうか。

 

渡辺先生:そうかもしれません。時代を考えると、ネス湖のネッシーに触発された可能性もあります。でも、そうだとすると…ネッシーは恐竜ではなく首長竜という爬虫類です。恐竜と首長竜、さらには翼竜なども同時代にいたとされますが、今は恐竜は恐竜類、首長竜や翼竜は爬虫類といったように、別のグループとされているんです。

 

柿次郎:え、そうなんですね。ぜんぶ一緒に捉えていました。

 

渡辺先生現在恐竜の子孫は生きていてそれは爬虫類ではなく鳥類だと言われます。ゴジラが誕生したのは今から約60年前。その後研究が進み、当時とは恐竜観がだいぶ変わってきているんです。

この化石は、現生するネズミドリの祖先。メッセルピット化石発掘地域で見つかった Original title: Evolution: A Visual Record ©2016 Phaidon Press Limited.

 

 

柿次郎:最新作の『シン・ゴジラ』はどうでしょう?

 

渡辺先生:最初に出てきた形態は地面をズルズルと這っていたから、一瞬足がないようにも見えて「なんだこれ」と思いましたね(笑)。てっきりゴジラとは別物だと思って見ていたら、後から変態すると知って「なるほど」と納得しました。

 

柿次郎:あのシーンは驚きました。ちなみに、手足なしで動ける生物なんて実際にいるんですか?

 

渡辺先生:サンショウウオやカエルですね。足がない幼生から始まって、そこから変態するというのはまさに両生類のイメージですね。変態後のゴジラは尻尾を上げて歩いていたので、時代に合った恐竜観にアップデートされているのを感じましたね。

 

柿次郎:初代ゴジラが生まれたのは水爆実験による放射能の影響という設定ですが、放射線が実際に生物の進化に影響を与えることはありえるんですか?

 

渡辺先生放射線の影響で突然変異が起こるということは十分ありえます。実際に放射線を浴びせることで品種改良をするということも試みられていますから。

 

柿次郎:え、例えばどんなものが?

 

渡辺先生:もっとも実用化されているのは、品種改良ではないけれど、ジャガイモへのガンマ線照射でしょう。芽が出ないようにして、保存が効くようにするんです(※)。その他にも、科学の研究の常道として、放射線を当てることで意図的に突然変異を起こし、そこから染色体や遺伝子の役割を探るという実験も行われてきました。

)ジャガイモに対する放射線照射については、食品衛生調査会において安全性が確認されたことなどから、昭和47年に、発芽防止を目的とするものに限り認められた。

 

柿次郎:じゃあゴジラもありえるのかもしれない…?

 

 

渡辺先生:うーん。でも、そうやって起こした突然変異というのは有害な場合が多いので、自然界でそれが優良な形質として表れるということは少ないんです。

 

柿次郎:最新作のアニゴジは2万年後の地球が舞台で、人類はゴジラに追われて一度地球外に脱出したという設定になっています。2万年もの長い時間が経つと、生物はどのように進化する可能性がありますか。

 

渡辺先生2万年というのは地球規模で考えたら短いですよね。恐竜が絶滅したのが6500万年前、人類が登場したのでさえ20万年前ですから。

 

柿次郎:ゴジラを頂点にした生態系が地球を支配し・・・なんてことは起こりえない?

 

渡辺先生:ただ、一つの種の平均寿命は約1万年だと言われてるんです。だから2万年もあればさまざまな進化が起こっている可能性はある。ひょっとしたらゴジラにも亜種が誕生しているかもしれない。けれども、その前に人類が滅びているというのが条件です。

 

柿次郎:えー!人類が滅びないとダメなんですか?

 

渡辺先生:はい。恐竜がいなくなって、その代わりに哺乳類が出てきたように、主役は順番に変わっていく。地球という生態系の中でそれぞれの位置を占めていくというのが進化の起こり方なんです。

 

柿次郎:人類を頂点としたピラミッドが崩壊して、ゴジラがその頂点に君臨する世界…。まさに今回の映画そのものですね。

 

柿次郎:主役が順番に入れ替わっていったという話がありましたけど、人類、恐竜以外が生命体の頂点に立っていた可能性もあるんですか?

 

渡辺先生:哺乳類と恐竜の祖先はほぼ同時期に地球上に現れました。これがもし哺乳類の方が少し先だったら、恐竜は小さい生物として片隅にいただけだったかもしれない。

 

これは空想の話でしかありませんが…もう一度同じスタート地点に戻ったら、別の世界になっていた可能性はあるでしょう。もっとも恐竜が滅びたと言っても、その子孫であるとされる鳥は今も残っているわけで。そして現代では哺乳類と鳥類が共存しているのは、面白い事実ですね。

 

柿次郎:特に恐竜の要素の強い鳥というと?

 

渡辺先生ビジュアル進化の記録の表紙に使われているヘビクイワシや、エミュー、ヒクイドリの顔には恐竜っぽさが残っているようにも見えます。

 

 

トビやハゲワシに近縁な猛禽のヘビクイワシ。その名の通り、毒ヘビでもつかまえて食べてしまう。鱗で厚くおおわれた強力な脚でヘビの背骨を砕くのだ。ちなみに日本では、上野動物園や掛川花鳥園などで見ることができる(201711月現在) Original title: Evolution: A Visual Record ©2016 Phaidon Press Limited.

 

柿次郎以前、鳥の中には、標高8848mのエベレストよりも高い位置を飛ぶ「アネハヅル」がいると聞いてワクワクしました。これは進化論的にいうと、高いところを飛べる適応力があったから「アネハヅル」が生き残ったという理解でいいんですか?

 

渡辺先生:いえ。エベレストよりも高い位置を飛ぶ鳥がいるからといって、必ずしもエベレストを越えるために進化したわけではありません。まず、飛ぶことに適応するためには骨が軽くなくてはならなかったので、骨の中が空洞になった。そうするとその中に空気が溜まる。その結果、長く高く飛べるようになったと考えられています。エベレストも、昔からあんなに高かったわけではありませんしね

 

柿次郎:はー、なるほど。つまり、あそこまで高く飛べるのはあくまで結果でしかない?

 

渡辺先生:そうです。他の目的で適応したものが、たまたま転用できるようになったケースを外適応と呼びます。こうした例は他にもたくさんあって、適応的に見えるものであってもそのために進化したとは限らないのです。

 

柿次郎:なるほど。人間の世界でも、大手フィルムメーカーが既存の技術を転用して、化粧品に生かしたという話に似ていますね。

 

渡辺先生:その通りです。人間の世界でも生物の世界でも、既存のものをどう転用するかというところからイノベーションは生まれるものです。

 

地球上の生物は鳥も魚も哺乳類も、どれも遺伝子のレパートリー的には似ています。どの遺伝子がどのタイミングでオンになったかの違いにより、多様な生物が生まれているんです。

 

柿次郎:例えばナマケモノは木の上をゆっくりとしか動けないから、とても弱そうに見えます。外的環境が変わることで、あの動きが強みに変わる可能性もあるということですか?

 

渡辺先生:というより、1万年前まで生きていたナマケモノは今よりずっと大きく、地上を歩き回っていたんですよ。

 

柿次郎え?

 

渡辺先生クマより大きいオオナマケモノというのがいたんです。それが人間の登場により滅んでしまったのだけれど、唯一木の上でのんびりしていたやつだけが生き残った。それが現在のナマケモノになったということです。オオナマケモノの化石は、チャールズ・ダーウィンがビーグル号航海で持ち帰っていたりします。

 

柿次郎:なんですか、その最高におもしろい話。じゃあナマケモノありきだから「オオナマケモノ」という名前になっているけれど、実際には「オオアバレモノ」くらい活発だったかもしれない?

 

渡辺先生:そうかもしれないですね(笑)。当時は他にも、コアラやウォンバットにも牛くらいでかいやつがいたとされていますが、その多くは投擲機を発明した人間に狩られ、滅ぼされたと言われています。

 

オオナマケモノのイメージイラスト。こんなのが目の前に現れたら怖すぎる

 

 

柿次郎:これまでの話を聞いていると、「進化」の定義をそもそも間違えていることに気づきました。決してプラスに働くわけではないんですね。

 

渡辺先生:そう。進歩とは限らない。ダーウィンはもともと進化=進歩なんて言っていないんです

 

その後に出てきたハーバート・スペンサーという人が「社会進化論」という考え方を広め、進化=進歩であり、それが自然の理であるから、人間社会にとっても進歩することは善であると捻じ曲げて主張したんです。

 

それが日本では、明治維新の富国強兵の論理になったし、ヒトラーの「劣勢人種の粛清」にもつながっていきました。

 

柿次郎:じゃあ、そのおじさんきっかけで戦争が…?

 

渡辺先生:まぁ、スペンサーはそこまで言っていないんですが、それを各国が勝手に解釈したという話があります。ダーウィンの進化論は生物学だけでなく、社会に与えた影響も大きいんですよね。

 

柿次郎:うーん。では研究者はそういった捻じ曲げた解釈に対して「本当は違うのになぁ…ふざけんなよ…」とか忸怩たる思いで見ていたんでしょうか?

 

渡辺先生:いや、そうとも限らないんですよね。研究者の間でも、馬は犬のように小さく三本指だった時代から現代のサラブレッドまで、一直線に進化してきたという「定向進化」という考え方が人気だった時代もありました。

 

私たちが目にするのは淘汰されずに残った種だけだから、結果だけ並べるとそう考えがちなんですが、それは大きな誤解なんです。

 

柿次郎:ちょっとイメージしづらいんですけど、進化ってどんなタイムスパンで起こるものなんですか? 生物進化の瞬間を目撃することって可能ですか? 例えば、「最近キリンの首短くなってね?」みたいな。

 

渡辺先生我々が生きている時代に目撃することは難しいです。これにはいろいろな説があって、変化は少しずつ起こっているという説もあれば、そうではなくていきなり変わるものだとする説もある。

 

しかしいずれにしても、進化というのは個体の成長ではなく、世代更新です。仮に前者の説をとったとしても、新しい集団は常に小さな集団として始まり、既存の種から隔離されたところにある。その勢力が大きくなった時に初めて目立ってくるので、「その時」は追えないということになります。

 

柿次郎:奥深い世界にもほどがある…。

 

柿次郎:ちょっとしょうもないことを思いついたんですけど、いいですか?

 

渡辺先生:はい。

 

柿次郎:日本における巨乳って、この数十年でアメリカの食文化が入ってきたことによって大きくなってきたんじゃないかと思うんですけど、これって日本人として小さく進化していると言えるんですかね?

 

渡辺先生いや、言えないでしょう(キッパリ)

 

柿次郎:えー!

 

渡辺先生:例えば日本人は身長もここ何十年で伸びているでしょうが、それでも世界平均から見れば突出していません。あくまで全人類の変異幅の中に収まる範囲だということです。

 

柿次郎:そうか…進化ではないんですね…。

 

渡辺先生:それに、巨乳がいいというのは進化ではなく文化の問題です。文化が変われば美しいとされるものも変わってくる。例えばヨーロッパの女性。胸は子供を育てるためのものとして捉えているので、無頓着に露出した服を着ている場合がある。それを見て我々日本人はドキッとしますよね?

 

柿次郎:はい、めっちゃします。

 

渡辺先生:ただ、ヨーロッパの文化からしたら当たり前なわけです。ちなみにこのような文化の変遷も一つの進化だと考える、リチャード・ドーキンスの「ミーム」という考え方もありますが。

 

柿次郎:はー、なるほど。文化と進化は分けて考えないといけないんですね。

 

渡辺先生:そうです。地球に初めて人類が登場してからこの20万年、ほとんど変わっていません。ラスコーの壁画を描いた人たちと、今、美大にいる人たちとでは、手法や道具が変わっただけであって、才能がどうにかしたわけではない。感性は同じかもしれないんです。

 

柿次郎:じゃあ人間は進化しないということですか?

 

渡辺先生進化して別種になったら、それはもう人間ではないでしょうね。つまり人間が人間のまま進化するということはあり得ません。

 

柿次郎:人間じゃない!?

 

渡辺先生:ただ、ホモ・サピエンスと同時期にはネアンデルタール人というのもいた。これを別種と考えるかどうかは意見の分かれるところではありますね。

 

柿次郎:別物じゃないんですか?

 

渡辺先生:ホモ・サピエンスの方が発音が上手で会話ができたなど、文化的な違いはいろいろあったようですが、中には混血もいます。ということはホモ・サピエンスとネアンデルタール人お互いを見てセックスの対象としていたということです。そう考えれば、見た目はそれほど違わなかったのかもしれません。

 

柿次郎:へー! そんな中、今の人類の祖先はどうして生き残れたんですかね?

 

 

渡辺先生もちろん、会話ができたことが大きかった。それ以前の話としては、二足歩行が できたことが大きかったんじゃないでしょうか。長距離移動ができるし、いろいろなものを持っていけるから移住に向いていたのではないかと。

 

これはホモ・サピエンスに限りませんが、最初にアフリカから出ていったホモ・エレクトスという旧人にしても、北京原人やジャワ原人になったということは、そこまで移動しているということです。

 

柿次郎:聞いたことがあります。

 

渡辺先生:その次にハイデルベルゲンシスという旧人がやはりアフリカを出て、ネアンデルタール人になった。同じ祖先ですが、それからちょっと遅れてアフリカを出たのが、我々の祖先であるホモ・サピエンスです。

 

このホモ・サピエンスも、アフリカを出てから1万年後にはユーラシア大陸全土に広がっていた。なぜこんなに移動しているのかというと、当時は狩猟採集だから、その地域で獲物を取り尽くすと、次の場所へ移動していたんですね。

 

柿次郎:今の地球は資源の奪い合いだけれども、当時は移動しさえすればそれでよかった?

 

渡辺先生:狩猟採集だと農耕社会と比べて養える人口は限られているけれども、移動を繰り返す生活は精神的にも鬱にならず、結構幸せに生きていたようです

 

それが、農業を発明してしまったがばっかりに搾取関係が生まれ、我々は今日あるようにいろいろと悩むようになった。なおかつそれを維持するために働き続けないではいられない世界になっているんです。

 

柿次郎:引くに引けない状態になっていったと。

 

渡辺先生:だから一見私たちを豊かにしてくれたように見える農耕社会だけれども、はたして本当によかったのだろうかということが、『サピエンス全史』という本で問題提起されています。狩猟採集時代も石器時代も、寿命は今より短かったかもしれないけれども、そんなにあくせく働いていたわけではなかった。絵を描いたりする暇もあったわけです。

 

柿次郎:理想的な生活!羨ましすぎる!

 

 

柿次郎:少し話題を変えて…進化論を研究している人たちの間ではどんな話題が最近ホットなんですか?

 

渡辺先生:昔は進化論の研究といえば化石を調べるか、サルと比較することを通じて人類の社会性が発展した理由を類推するなどの方法しかなかったんです。

 

それがこの30年でゲノム解析や分子生物学が発展したことで、発生学(個体発生を研究する生物学の一分野)として扱えるようになった。このことが今脚光を浴びています。

 

以前は再現実験のできない進化論は科学じゃないとさえ言われたけれど、今は様々な分野の人が入ってくるようになりました。

 

柿次郎:改めてお聞きするようですが、ゲノムってなんですか?

 

渡辺先生ゲノムというのは生命体を維持するために必要な最小限の遺伝情報のセットを指します。遺伝情報の研究自体は以前から行われていたのですが、シークエンサーという機械が開発されたことにより、高速で塩基配列が読めるようになった。それからゲノム解析ということが盛んに言われるようになりました。

 

柿次郎:『シン・ゴジラ』では確か「ゴジラには人の8倍の遺伝情報がある」という話があったと思うんですが、それだけゴジラは人間より優れているということでしょうか?

 

渡辺先生:そうではありません。というのも、遺伝情報があるというのと、それが実際に使われているかどうかは別の話だからです。タコや肺魚(ハイギョ)も遺伝情報が多いけれども、それが使われているとは限りません。

 

先ほども触れたように、基本的に動物が使っている遺伝子はその多くが共通しています。昆虫の節を作る遺伝子も、我々の背骨を作る遺伝子も一緒。だから、必要最小限でもやっていけるんです。

 

柿次郎:え、じゃあ、なんのために余計な遺伝情報があるんですか?

 

渡辺先生:使っていないものが余分にあると、突然変異をそこでためておいて、ある時何かスイッチが入れば別の動きに使えるかもしれない。何かの拍子に使っていなかった遺伝子にスイッチが入ることで、例えば羽を伸ばそうとか、そういうふうに進化してきたのかもしれません。

 

柿次郎:ヤル気スイッチみたいな! じゃあ気候変動が厳しくなった時に、もしかしたら人間の使われていなかったスイッチが入って、という可能性も?

 

渡辺先生:そう。葉緑体遺伝子にスイッチが入って、光合成を始めるかもしれません(笑)。

 

アニメ映画版ゴジラ『GODZILLA 怪獣惑星』のビジュアル

 

柿次郎:面白いですねー! アニゴジで描かれているように人類が地球を捨てて宇宙へ移るという選択をすれば、もしかしたら重力がない環境に適応するためには、今とは別の能力があった方が便利ということはあるかもしれないですよね? そうやって何かのスイッチが入ったら、人間が進化して新たな種になるということもありえますか?

 

渡辺先生:それが人種の違いというレベルを超えた違いであれば、進化と言ってもいいかもしれないですね。ただ人間の遺伝的な変異の幅は他の種と比べてすごく小さいんです。地球上を見てもらえばわかりますけど、人間はあらゆる場所に住んでいるじゃないですか。どの人種とでも混血ていますしね。

 

柿次郎:でも、ABO式の血液型の分布は国によって違うとかも聞くじゃないですか。

 

渡辺先生:それはABO式の免疫反応で見ればそういう分布だというだけであって、別の遺伝子で見ればまた別の分布をしているということです。そしてそういう違う種類と分類できる人同士であっても子供は作れる。人間が一律であるというのはそういう意味です。

 

ちなみに、ヨーロッパ人は自分の血液型さえ知らないと言いますし、ABOの血液型占いを信じているのなんて日本人だけです。だからこれはあくまで文化の話なんですよ。

 

柿次郎:じゃあ遺伝学的には血液型占いは根拠がない?

 

渡辺先生:そうですね(キッパリ)。

 

柿次郎:それでも日本人は血液型を聞き続けるんでしょうね。それもまた文化…。

 

【左】南アフリカで見つかった、およそ200万年前の人類の初期の祖先、アウストラロピテクス・セディバの頭骨。【右】南アフリカのライジング・スター洞窟で発見された、ホモ・ナレディの化石のほんの一部 Original title: Evolution: A Visual Record ©2016 Phaidon Press Limited.

 

柿次郎:もうひとついいでしょうか。『ビジュアル進化の記録』の中に書かれていた、「今地球は『第六の大量絶滅期』に入っている」という話が気になったんですけど、どういうことか説明してもらえますか? やっぱり人間は絶滅するんですか?

 

渡辺先生:かつて地球上にいた大型生物を人間が滅ぼしたという話をしましたが、人間が環境を破壊することによって、そこに住んでいる生物が根こそぎ死んでしまうということが今現実に起きているんです。例えば地球温暖化により、サンゴの白化が進んでいる。近い将来にはなくなってしまうかもしれない。

 

柿次郎:先日、宮古島へ行ってきたんですが、そこでもサンゴの7割が白化していました。聞いたところによると、元に戻るのには7、8年かかるらしいんですが、7、8年もこの状態がキープされているとも思えませんでした。

 

渡辺先生:もちろん、地球の長い歴史においても、エルニーニョや寒冷化という気候変動はあったし、そのことによって滅んだ種もありました。でも、人間社会の二酸化炭素の排出により、それがより加速しているのは事実でしょう。なおかつ温暖化といっても単純ではなく、年によっては寒い年というのも当然ある。だから予測ができないんです。

 

柿次郎:人間の想像を超えてしまっているんですね。

 

渡辺先生:かつての人間というのは、仮に海面の水位が高くなったら山の上で生活をするというように、自然に流されて生きてきました。でも、ここまで都市を作り上げてしまった今、東京が水没したらかつてのようにまた山に登ればいいと考える人は少ないでしょう。人間が自然をコントロールするようになってから、事情が変わってきてしまっているんです。

 

柿次郎:そうやって人間が作り出してしまった新しい環境にも適応する生物が出てきて、環境変化のスピードが加速した分、より高速で生物が進化するとは考えられないんですか?

 

渡辺先生:うーん。新しい種が生まれるよりも明らかに早いスピードで滅んでいくでしょうね。元がいなくなったら、進化も何もないですし。

 

柿次郎:それはまずい。孫の時代を考えると暗い気持ちになってきました。

 

渡辺先生:でも、ゴジラという作品のメッセージは、まさにそういうことに警鐘を鳴らすものですよね。人間および科学技術が生んだものに対する地球の怒り。その化身がゴジラでしょう。

 

柿次郎:たしかに!

 

渡辺先生:旧作ではそれを葬ったのもやはり科学でした。一人のサイエンティストの手によるものでしたよね。『シン・ゴジラ』では、その役目をいろいろなところから集めた理系のオタクによるチームが担っていた。そこが現代的で面白いと感じましたが。

 

柿次郎:『シン・ゴジラ』が公開されたのは原発事故の後ですし、皮肉っぽい描写もありましたよね。

 

渡辺先生:福島の原発事故がなかったら、『シン・ゴジラ』という作品は生まれなかったかもしれない。それぞれの時代背景を反映しているけれども、いずれにしろ人間が生んだ科学技術に対するしっぺ返しというテーマは新旧作に通じたものでしょう。

 

柿次郎:そう考えたら、「地球第六の大量絶滅期」にアニゴジが公開されることにも、深い意味があるように思えてきました。渡辺先生、貴重なお話ありがとうございました!

 

というわけで、皆さん。11月17日公開予定のアニメーション映画『GODZILLA 怪獣惑星』を観る準備はできましたか? 進化論の視点をもって観賞すると、また違った印象を受けるかもしれません。

 

あと渡辺先生が監修した『ビジュアル進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』(12月20日発売) もチェックしてみてください。ではまた、どこかでお会いしましょう!

 

企画・編集:徳谷柿次郎(Huuuu inc.)

執筆:すずきあつお(Huuuu inc.)

写真:藤原 慶 イラスト:オノカズエ 協力:天野潤平(ポプラ社)

書いた人:徳谷柿次郎
株式会社バーグハンバーグバーグを退職後、現在は株式会社Huuuu代表取締役。ローカルに視点をあてた、どこでも地元メディア「ジモコロ」編集長として、全国47都道府県を取飛び回る日々をおくる。趣味は、ヒップホップ、温泉、カレー、コーヒー、民俗学。
Twitter:@kakijiro   Facebook:徳谷柿次郎

映画公開までに
ゴジラは討伐できるのか・・・!!!